印刷設定の変動要素

 

12月も半ばになり、木々の葉も落ちて、寒さが身にしみるようになってきました。大変ご無沙汰しております、アールアイです。随分長い間、さぼってしまいました。

 

さて、スクリーン印刷の特徴の一つとして、オフセット印刷やグラビア印刷などと比較してインキの膜厚を厚く印刷することができます。数μから100μ超といった幅広い厚みを設定できますが、それは主に刷版の仕様で決まります。

 

刷版の仕様というのは、紗のメッシュ数、紗厚、乳剤厚、オープニング(開口率)で、同じ仕様で製版された版で印刷すれば、基本的には毎回同じインキの膜厚になるはずです。ところが、実際印刷してみると、同じ膜厚にならない事が多々あります。

 

先日、ちょうど一年ぐらい前に納めた製品のリピートの依頼を受けました。UVインキを使用した表面華飾の製品で、見た目と手触りを重視する製品でした。

 

前回と同じ時期の作業でしたので、前回の印刷設定データと同じ設定で印刷を始めました。刷り始めて前回の見本と比べてみると、見た目は同じでしたが、手で触って比べた感じが前回より薄かったので、数値を比較するためにマイクロメーターで測ってみました。すると、10%程膜厚が薄い事がわかりました。

 

手触りも重視でしたので、なんとか膜厚を同じにしなければなりませんでした。そこで前回と何が違うかを、もう一度前回の印刷設定データを確認したところ、原因になりそうな違いは前回より室温が5度高い事と、スキージゴムの長さが4mm短かった事でした。

 

一般的にUVインキは、温度が高くなると粘度が下がりダレ易くなり、インキ膜厚の低下につながります。また、スキージゴムは短くなると、ゴムのしなりが少なくなり、印刷する材料に対するアタック角度が、ゴムが長い時より大きくなり、印刷中のスキージの移動によって掻き取られるインキの量が増えてインキ膜厚の低下につながります。

 

そこで、それらの事が原因だろうと想定して、印刷スピードを落とさずに、できる事を考えながら対処していきました。UVインキの粘度は温度依存が高く、粘度を上げることはなかなか難しいので、印刷の設定を変えていくしかありませんでした。

 

粘度の下がったインキの膜厚を増やすためには、いかにスキージで掻き取られるインキの量を減らして、材料にインキを移すかということになります。そのためにまず、アタック角度を小さくしてみましたが、まだまだでした。次にエアシリンダーの印圧を前回の半分ぐらいに下げてみました。印圧を下げることで、材料に対するスキージの圧力が抜けて掻き取られるインキ量が減り膜厚が増えるのですが、もう少しでした。

 

あと、今使っているスキージでできることはスキージゴムのエッジを調整する事でした。エッジが尖っているよりも、丸い方が紗に対する抵抗が減り、スキージが掻き取るインキ量も減り、スムーズにインキが材料に転移していきますので、前回よりも丸くして印刷してみました。

 

このような段階を経て、ようやく前回の見本の膜厚のレベルに達しました。結果的に、刷版の使様が同じでも、前回の印刷設定を大きく変えて印刷しなければ同じ膜厚にはなりませんでした。

 

この事は一つの例ですが、このような事になったのは、印刷の現場、また他の部署でもそうですが様々な変動要素があるからです。

 

季節や天候、室温や湿度、スキージの状態や印刷機の調子、インキの状態、そしてオペレーターの調子など、印刷に影響を与える変動要素はたくさんあります。年間を通じてばらつきの少ない安定した製品を作り続けるためには、それらの変動要素を見極めて、臨機応変に対処していくことが重要です。そのためにはやはり経験が必要です。

 

まずはやってみる、そして自分の目で確かめる。その結果を自分の中に取り入れて、共有できる事は共有する。そうすることで次に何をしたらいいかが段々身に付いていきます。言葉にする事は簡単で、実際の作業ではなかなか思うようにはいかないところもありますが、それができる現場を目指して努力していきたいです。

 

今年も残りわずかとなりました。今年一年ありがとうございました。来年も更に前へ進めるよう頑張っていきますので、よろしくお願い致します。

                              

                                     アールアイ

 



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