SAT機の設定

今日は、牡牛です。大変ご無沙汰しておりました。前回までは、SATシステムを立ち上げる為に、オフセット印刷の基本的な、特に水なしオフセット印刷の基本を学び、SATインキの基本物性を高めていくお話でした。今回は、いよいよSAT機をいかに設定するかのお話です。

 

SATシステムの目的は、高精細柄を透明フィルムに裏から印刷して、裏打ちをシルクスクリーン印刷でカバーして、付形、樹脂入れして耐久消費財を製造することが第一の目的です。その第一工程の、高精細印刷が、SAT機での印刷(SAT印刷)ということとなります。

 

この部分は、前回でもお話しましたが、インキが水なし版からブランケット、印刷材料へと適正に転移しなくてはいけないという、大変デリケートな部分です。更に、SAT印刷の性能の維持というテーマもある為、印刷機には通常のオフセット印刷機とは異なる設定が必要となります。

 

1号機(初号機)を購入するにあたり、サイズは当初750サイズを考えていましたが、当時顧問をお願いしていた方から、「920にしなさい」とご指導があり、予定より大きい920になりました。確かに、ポリカーボネートは、原反サイズが900mm×600mmなどが多い為その方が良いかもしれませんが、いきなり大きいサイズいけるのか、という不安もありました。RMGT様でのデモテストでは、1050でも印刷できていたので、大は小を兼ねるで、この判断が出たのだと思います。そして、920ということで、SAT機としてのカスタマイズが始まっていきます。

 

先ずは、印刷スピードですが、ノーマルでは16200枚/時というスピードが出る印刷機ですが、SAT機は、高耐光で、成形樹脂入れという過酷な後加工がある為、インキの硬化性が重要です。その為、UV-LED照射器の光量測定を行い、適正な印刷スピードはどの辺りかということで、結果としては、半分の8000枚/時までという設定になりました。更に、SATインキの印刷に於いては、2000枚/時以下での運用ということになりました。遅いと思われるかもしれませんが、後加工の事を考えれば、充分なスピードで、1パスで高精細多色刷りができるので、今の所問題無しという事になりました。

 

しかし、高速で印刷する機械を低速仕様にする為にRMGT様には機械構造で色々な工夫をしていただき苦労をおかけしました。因みに、テストで最低速の500枚/時でも印刷してみました。この場合は、充分過ぎる硬化条件(オーバーキュア)でしたが、印刷に於いては支障はありませんでした。当然刷版は水なし版ですが、この低速でも地汚れせずに印刷できます。SATシステムは水なし印刷なので、元々の920の水付けローラー群は全く装着されていません。

 

但し、そのおかげで、版面や付けローラ(第一付け)が丸見えなので、水なし印刷では重要な、版面やローラー表面の温度が測れる為、各胴に温度センサーを付けていただきました。そして、各胴の温度を調整する為に、チラーからくる温水、或いは冷水の量を調整する為のバルブを各胴に設けていただきました。

 

夏場はチラーから冷水を送るけど、ある胴の温度を上げ気味にしたければ、その胴のバルブを閉め気味にして冷却効果を下げます。冬場は、チラーからくる温水を減らして、ある特定の胴の温度を下げる方向で調整します。また、全体のバルブ開度を一定にして温度を平衡にしておき、特定の胴のバルブを開いたり閉じたりして温度調整する事も可能です。

 

SATシステムでは、材料は透明フィルムが主体になるので静電気などでゴミが付きやすいのですが、当然普通の印刷でもゴミがつくのはいけませんが、SAT印刷は水なし印刷の為、一旦着いたゴミは取れないので、ゴミ取りは必須です。なので1胴目の部分が粘着ローラーを使った両面のゴミ取りになっています。このローラー部分は、ミノグループ様に依頼して、粘着ゴムの成分がフィルム表面に転移して、インキの転移に影響が出ないようにしていただきました。

 

ローラーの検証は520単色機で幾つもテストして選びました。ローラー上のゴミは直ぐに別ローラーに転移して、生地に直接触れるローラーは常に清浄に保たれる仕掛けになっています。また、胴間の搬送はスケルトン胴で、印刷面の傷が付かないようにしてあります。この時、低速でフィルムが機械の他の部分に当たらないようにテストを繰り返し改造していただきました。

 

印刷ローラーは、520単色機での各種テストで、決めて行ったローラーが、本機に初期採用しました。ブランケットも520単色機の結果からテストでメインで使用していたものが決定となり、それで検収をしました。

 

UVオフセット印刷では、ミスト対策が課題ではありますが、低速のSATでもやはりミストの問題はありますので、ファンとダクト、フィルターによるミスト除去は設置していただきました。

 

1号機(初号機)は、本機とはいえ、開発機であり、今後のSAT印刷の問題点や改善点を洗っていくためのものでもあるので、各胴は観察窓付きで、UVカットされた照明付きにしていただいております。稼働中の版面やローラー上のインキの状態や、ブランケット表面を直に見ることができます。

 

SATシステムでは、ポリカーボネートに接着できる耐光性のある特殊インキであるため、その物性の影響でインキツボにはインキをフォンテンローラーに付けるためのアジテーターが必須です。各胴全てにアジテーターが設置できるようになっていて、その形状は、通常のものとは全く異なる形をしております。このアジテータも、製造所の開発現場へSATインキを持ち込んで、インキの流動状態を確認して形状や、方策を工夫していただきました。

 

このように、SAT機ならではの装備をRMGT様やミノグループ様のご協力によってSAT専用装置を搭載していただいた1号機が出来上がってくるのです。

 

いよいよ、社内に設置された初号機は、どうなってゆくのか。というところで、今回はおしまいです。次回はいつになるやらですが、今年もあと僅か。本年中は大変お世話になりました。来年もよろしくお願いします。皆様、良いお年をお迎えください。

 

牡牛でした。

 



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